芋・栗・南京:桂村のこと
- 文/田中青佳 イラスト/木村倫子
- 2014年10月12日
- 読了時間: 2分

どんなオシャレスイーツに姿を買えようとも、
芋・栗・南京は、私にとって「素朴」なもの。
幼い日の思い出と結びつきます。
幼少の頃から二十歳くらいまで、しばしば
茨城県の端の方にある「桂村」という農村を訪れていました。
そこはとても緑豊かで水も美しい土地。
春は、田んぼでオタマジャクシやザリガニを捕まえ、
夏は、ほうきを持ってホタルを追いかける。
田植えや稲刈りの時期には、あぜ道にシートを広げ、お茶で休憩。
(甘い和菓子といっしょに栄養ドリンクや白菜の漬物が並んでいて
今となってはもう懐かしい、80~90年代の農家の風景です。)
そして秋は、なんと言っても、今回のお題である「芋・栗・南京」。
キノコやイナゴとりも楽しみだったけれど、
あのホクホクの甘みに子供が抗えるはずもなく、
午前中にも午後3時にも、おやつの時間を設けていたっけ。
栗は、半分に割って、スプーンでほじって。
たまに虫がコンニチワすると、慌てて見なかったことにして、次の栗へ。
キレイに剥ける栗と、そうでないのがあるから、姉妹の手を見つつ、栗選び。
芋は、最近流行の、とろりと甘みの強いものではなく、
ほくほく、ちょっとモサモサな食感のを牛乳とあわせて。
(マーガリンなど乗せると、またおいしい。)
南京(かぼちゃ)は、おじいちゃんが大きな鍋で、砂糖と醤油でガーッと煮る。
おじいちゃんが台所に立つのは、南瓜の煮物のときだけだったから、
ちょっと不思議で、特別なおかずでした。
今思い返すと、どれもとても贅沢な食べ方です。
素材の旨味なんて言葉、当時は知る由もなかったけれど
とれたての野菜のおいしさを丸ごと味わっていました。
「なんにもないのが、この村のいいところなんだなぁ」なんて
勝手なことを言いながら、特別有り難いとも思わずに。
2014年。今、桂村という名前は、地図にはありません。
数年前に、近隣の街や村と合併し、今は城里町という名になりました。
祖父母もとうに他界し、私が最後に訪れてから、10年が経とうとしています。
それでも毎年木枯らしの吹く頃になると、あの芋・栗・南京を無性に食べたくなります。
九州出身の伴侶と暮らして4年になる私には、きっともう、北関東テイストのかぼちゃの煮物は、
しょっぱくて仕方ないだろうけど。
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