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ジャム:カントリーガールの面目

  • イラスト・文/木村倫子
  • 2016年5月16日
  • 読了時間: 2分

ジャムのヒントを求めて、書店の料理本コーナーをうろついていたら 編集者として勤めていた頃、お昼休みにカレーを食べながら

「ジャムが作りたいんじゃなくて、ジャムの本が作りたいの!」と言った、ちょっと恥ずかしい記憶が

にわかに甦りました。

あれはレシピ本ブームに乗っかっただけというか、ジャム的な何か(って何でしょうね)でもよかったというか、つまり実のない企画でした。当然結果はボツ。 あぁ、ヤダヤダ…… もっと匂いや手触りのある取っ掛かりがあるでしょうに。 逃げるように書店を出ると、駅前の歩道橋に「キウイワイン 発売開始」の横断幕が張られていました。 初夏恒例、甘くて冷やすと美味しいらしいご当地ワインの宣伝です。 歩き廻ったせいか、横断幕をバタバタと揺らす風が心地よく ホッとしたら、今度はキウイジャムのことを思い出していました。 小学生の頃のこと、父が畑に木材と竹で藤棚のようなキウイ棚を拵えました。 棚は蔓が伸びるままに年々拡張され続け、収穫されるキウイは増える一方 困った母が、いつからかジャムを作るようになったのです。 ぐらぐら煮えたキウイの酸っぱい匂いと、投入したばかりの砂糖の甘い香りは 簡単にはしっくり混じり合わず、台所から居間まで流れ込んでくるその匂いは 秋の風物詩となりました。 毎年毎年、ジャム作りを黙々とこなしていた母でしたが 一度だけいただきもののブランデー ナポレオンを惜しげもなく使って 豪華なキウイジャムを作ったことがあります。 瓶の口に親指を添えて、ブランデーをドバドバと注ぐ姿が楽しそうでした。 子供だった私には、もったいなさも味の違いもピンと来ず 残念ながら美味しかった記憶も、まずかった記憶もありません。 ただ台所のはしゃいだ雰囲気がうれしかったことばかりが思い出です。 よく匂いや味がきっかけで何かを思い出す、なんて話がありますが 先日は風が匂いを運んできてくれました。風が通る棚下の涼しさも。 おかげで元カントリーガールの面目が保たれたような、変な安堵感に包まれて帰ることができました。 ろくに手伝いもしなかったくせに。

 
 
 

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