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海:刻まれる味

  • 写真・文/田中青佳
  • 2015年8月25日
  • 読了時間: 2分

潮風の届く土地に移り住んで、初めての夏を迎えました。 自転車で15分走れば、たくさんの人が海水浴や磯遊びを楽しむ小さな島へ行ける生活。 幼い娘といっしょに海に足を浸したり、海辺で暮らす生き物を眺めたり。 海が、わざわざ足を運ぶ憧れの存在から、身近なものへと変わりました。 これまでの人生のほとんどを東京の街中で暮らしてきた私にとって、 それはとてもすごい変化で、この夏はきっと、生涯忘れられないものとなりそうです。 そんな今日この頃、不思議なことに、たくさんの海でのおいしい記憶が、 驚くほど色鮮やかに蘇ってくるようになりました。 セピアからフルカラーへのリマスター、まさにそんな感じで、海で味わったいくつもの幸福な食の体験が、まるで今さっき口にしたものかのように、鮮烈に思い出されているのです。 幼い頃、波うち際で遊んだ後に、母が口に放り込んでくれた氷砂糖の強烈な甘さ、 離島行きのフェリーの中で、船長さんが豪快にさばいたプリップリのシイラの生命を感じる旨味、 夕陽に包まれながら飲んだヒナノビールとナンプラーの香りがする一皿の香ばしさ… たっぷり遊んだ後の心地よい疲れと体に残る波のリズム、磯の香り、 周囲の人々の「海が好きだ!」という高揚感なんかがごちゃまぜになって、 どれもたまらなくおいしくて、食べ終わってしまうのが惜しいと感じた、あの味たち。 こんなにもクッキリとした蘇りは、そろそろ中年に差し掛かる私の人生において初めての経験です。 忘れていたわけではないけれど、ぼんやりとした色合いになっていたもの…

それが、こんな風に、また色を取り戻すなんて! おそらく、海への想いとか生活や心境の変化、そんなものがうまい具合に結びついて、 脳や魂に刻まれた記憶が呼び覚まされたのでしょうが、本当に奇妙なことです。 この経験を通して知ったのは、おいしい記憶は刻まれる、ということ。 味わうのは一瞬であったとしても、ずっとずっと体や心の奥深くに残っている。 だからきっとまた、必要になれば、必ずまた取り出せる。 たとえこの先10年20年後、また記憶が褪せてしまうことがあったとしても…。 人生の悲喜こもごもを経て、2015年夏。 海にまた、教わりました。

 
 
 

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