スイーツ:キラキラの魔法
- 文/田中青佳 イラスト/木村倫子
- 2015年2月9日
- 読了時間: 2分

「スイーツ」と口にするのは、なんだか気恥ずかしい。 幼い頃からフリフリや甘ピンクが苦手な私には、ちょっと敷居が高いというか過分なもの。
あんな華やかなものは、私には似合わない…そう思っていました。
だけどそんな私も、スイーツに助けられたことがあります。 それは、私が子供を産んで数ヶ月後、あやす・おっぱい・おむつ・寝付かせ・おっぱい・おむつ・あやす…を繰り返しながら、必死で日々を過ごしていた時期のこと。 9月の終わり、とても蒸し暑い日。
銀座で、友人とランチをするために待ち合わせをしていたのですが、
いつもはなかなか昼寝しない寝ない娘が、抱っこひもの中で眠りについてしまいました。
ポンと生まれた自由時間。 うわ!うれしい!何をしよう…!と浮かれた私の脳裏に浮かんだのは
“とにかく、キレイなものを見たい”という願いでした。 そしてすぐさま、銀座三越の地下一階。いわゆるデパ地下へ向かいました。 目に飛び込んできたのは、ピカピカツヤツヤに光る色鮮やかなスイーツたち。
ブラウンの光を放つショコラ、ころころかわいらしいマカロン、
フレッシュな香りを放つフルーツケーキ…一瞬で消えてしまうものだけが持つ繊細な輝きを放ち
どれも美しくて、まるで宝石のようでした。 さぁ、どのキラキラを自分に取り入れよう…! そう思いながら華麗なスイーツを眺めるのは、震えるほど楽しい時間でした。
結局買ったのは、たくさんのベリーで飾られたゼリーひとつだけでした。 おっぱいが詰まるのが心配で、クリームのものは買えなくて。
その日の夜中、娘を寝かしつけた後に、薄暗いキッチンでひとり食べたことだけは おぼろげに覚えていますが、今必死で思い返しても、その味は、ちっとも思い出せません。 おいしかったとは思うのですが、いそがしい記憶に上塗りされて忘れてしまいました。 ただ、あの日私が取り戻した「何か」がとても大切なものであったことだけは とてもはっきりと色濃く、私の中に残っています。 きっといつか、ベルサイユ宮殿に行けたとしても
530カラットのダイヤモンドを手にしたとしても(しないだろうけど) あの日の感動にはかなわないだろうな、と思います。 赤ちゃんの育児に必死だった、あの日の自分。
えらかったな。
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